ようやく読書マラソンを再開する元気が出てきたので、H・G・ウェルズ氏の「モロー博士の島」を読んでいます。
会社のお昼休みの10~15分くらいを使って読んでいるのでスローペースですが、じわじわと読み進めている次第。
果たしてモロー博士はヴィクターくんのお友達になってくれるでしょうか?
すっかり忘れられがちだけれど、このブログは読書記録をつけるために立ち上げました…が、最近は読書記録に限らず私が普段思っている事とか私なりの考察等を取り留めもなく書き込んでおります。
snow-moonsea.hatenablog.jp
そして同時にこんな企画もやっていました。
M.S.F.P.(マッドサイエンティスト交友会)
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「フランケンシュタイン:或いは現代のプロメテウス」のヴィクター・フランケンシュタインくんが(文学における)"マッドサイエンティストの祖"と呼ばれているらしいので、それ以降に生まれた文学作品のマッドサイエンティストを集めて比較・系譜を作ろうという試みです。分類としては文学史、比較文学でしょうか…?
でも基本的にはクロスオーバーで交流させて遊ぶ二次創作のようなものを想定していたので、その試みを「交友会」と名付けました。
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この企画で収集しようと思っているのは系譜となりうる、つまり後世に影響をもたらしている可能性が高い作品に限ります。私の愛する映画「蠅男の恐怖」の原作が1953年なので「フランケンシュタイン:或いは現代のプロメテウス」の1818年~「蠅」の1953年前後を範囲内としました。約140~150年間ですね。
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H・G・ウェルズ氏の「透明人間」の科学者グリフィン以降は候補がなかなか見つからなくて、友人の助けを借り、白羽の矢を立てたのが「透明人間」と同著者の「モロー博士の島」だったというわけです。
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あらすじをさっくり読んだ感じだと「オデュッセイア」のアイアイエ島のようなものを想像していたのですが…。
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既に勝手に想像していたあらすじとは全く違う物語展開。ちょっとハラハラしています。
直感ですが映画「ジュラシックパーク」みを感じました。
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読み終えるまでもう、あと少し。集中したら数十分で読み終える事が出来るでしょうけれど、相変わらずちまちまと読み進めています。
結末がどうなるのか楽しみです(*‘ω‘ *)
さて、表題の件。
モロー博士はヴィクター・フランケンシュタインくんのお友達になってくれるだろうか?、ですが…。
ヴィクターくんとモロー博士は研究内容が被るのです。そう、彼らの研究は人造人間の作成。彼らの違いは検体が生きているのか死んでいるのかの差だけです。(ヴィクターくんの場合はそれを最終目的としていなかったようなのですが…結果として人造人間を作った事で破滅したからねぇ…)
「フランケンシュタイン」は「モロー博士の島」制作時に影響を与えた、(文学の)ご先祖様なのかもしれません。
モロー博士が辿った運命もヴィクターくんに何となく似ています。
モロー博士はその研究の手法の残酷さから都会を追われた老いた医学系の研究者。白いひげを生やした老紳士。研究に対する異常なほどの熱意と、被検体に無慈悲なところがあり、確かに研究は偉大かもしれないけれど、主人公はその手法と研究に嫌悪感を抱く。
うん、「これぞTHE・マッドサイエンティスト」という感じです。
ヴィクターくんは天才ゆえに、研究する事わずか数年で"出来てしまった"が為に、精神的にも未成熟なまま能力を持て余してしまった感じがします。自分の生みだした"フランケンシュタインの怪物"に怯える様は、"マッドサイエンティストの祖"と呼ぶには現在におけるマッドサイエンティストという属性のイメージから離れているような気がします。
それに対してモロー博士は立ち向かえる強さを持つぶん、かなり強い。
失敗作への見限りも早いけれど、未完成の傑作にたいしての執着心も強い…まさに、「これぞTHE・マッドサイエンティスト」。
1896年の作品なので、「フランケンシュタイン:或いは現代のプロメテウス」から78年後。
1897年の「透明人間」のモデルが1886年の「ジキル博士とハイド氏」なので、順番に並べてみると確かに徐々に現在のマッドサイエンティストのイメージに近くなっていく。
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しかしながら、"祖"とされるヴィクターくんが現在におけるマッドサイエンティストのイメージに相当する要素を持たないとも言い難い。
「モロー博士の島」は主人公のプレンディックが進行役となって物語が進みますから状況に踏み込んだ第三者の視点での印象が読者に伝えられます。だからモロー博士の研究熱心な真面目さ、しかしそれが常軌を逸している、研究方法は残酷であるといった事が、プレンディック氏の抱いた感想という形で文章に書かれる。
それに対して「フランケンシュタイン:或いは現代のプロメテウス」は怪物との闘争の末に衰弱した"現在のヴィクター"くんが自分の体験談を語って聞かせた話を、彼を救出したウォルトン隊長が手紙にしたためたもの、という形式をとっています。字の文はその時の語り部に依存するため、研究に没頭していた"19~21歳の頃のヴィクター"くんを語るのは、"現在のヴィクター"くんです。
彼は研究で何をした、という事について「材料を集めて8フィートのサイズの人間を形づくり、命を吹き込んだ」というざっくりとした事しか話してくれなません。
おまけにヴィクターくんはコミュ障なので他人に相談する事が出来ない性格の為、自分が過ちを犯した事を自覚してもそれを事細かに説明するシーンはありません。だから、研究時の方法について嫌悪感を示すような台詞を言う人はいない。
最も、親友のヘンリー・クラーヴァルくんは彼のうわ言から何となく「何か研究で大変なことが起きたらしい」というのは悟っていたのでしょうけれど、ヴィクターくんを問いたださない態度をとっていました。彼なりの気遣いだったのだろうとも思いますが、ヘンリーくんは文系男子みたいなので「聞いたところでわからない」と思っていたのかもしれない。
終盤、何人かに人造人間の事を話すシーンはありますが、ヴィクターくんはかなり説明を端折ったでしょうし、常識を超えた出来事なので言葉で説明されても現実の事だと認識できていなさそう。おまけに、彼らはヴィクターくんの実験当時の状況を見ていませんから、当時のヴィクターくんの様子はわからない。
なので、ヴィクターくんが研究中に如何なる凄惨な所業を犯していたとしても、そういう説明は入らないし、第三者視点の証言者はいない。
ということは、例えば、もしも語り手が「(モロー博士のように)被検体を麻酔もせず生きたまま改造する」という所業を「これといって語るに値するほど大した事ではない」「今では後悔しているし人に話す事は憚られる」と思っていれば、文章にすらなっていないかもね。
そういうのを"信頼できない語り手"と呼称するそうですけれど。
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即ち、文章化されていない部分で何が起こっているかは読者が想像するしかないという事。最も、ヴィクターくんは研究時の説明にポロっと「生き物をいじめる」という文章を入れているから、もしかしたら本当にモロー博士みたいな事をやってたかもしれないのだけれど。
しかしそれは読者の想像にすぎないことです。
元の形である"ピュア・ブラックコーヒー"は元の小説の文章、それが全てだから、そうやって空想を巡らせるのは読者の仕事であり、ある意味その行為も二次創作なのですよね。少なくとも、読者が解釈を一つ加えただけで自分の好みの味に変えた…フレーバーパウダーをかけた事になるのでしょう。
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真実を明らかにしたいなら登場人物の心の作り主である著者に直接聞かなくちゃいけないでしょうけれど、きっと著者は答えてくれないだろうから、まぁ…その辺は小説を受け取った読者の娯楽として色々想像するのが良いのかもしれません。
さて、なのでヴィクター・フランケンシュタインが「全くマッドサイエンティストっぽい態度をとらない」、というのは定義出来ない。…のだけれど、(私の主観ですが)やっぱり「マッドサイエンティストの祖というには豆腐メンタルが過ぎる」という印象なので、マッドサイエンティストのイメージからは少し離れているように見えます。
でも彼が"マッドサイエンティストの祖"、なのですよね……。勿論、それも定義化されたことではなく、SF文学の情報を集めている時に目にした言葉なのですけれど。
マッドサイエンティスト - Wikipedia
でもまぁ…やはり主観ではありますが、モロー博士の(文学史的な意味で)ご先祖様はヴィクターくんなんだと思います。
以上を踏まえて、モロー博士をヴィクターくんのお友達に……"M.S.F.P.(マッドサイエンティスト交友会)"に迎え入れるかどうかという判断は、きっと「入れる」という事になりそうです。
ただ、研究内容が似ているというだけで、仲良くなれるとはあんまり思っていないのですが…。しかしそれはクロスオーバー二次創作としての側面であり、本来の目的は比較文学なので、比較対象には必要な存在だと思います。
まぁ、そのうちイメージイラストも描きたいですし、せっかくなのでいずれ系譜(文学史・比較文学から見た関係性)にまとめたものも作りたいですね。
系譜を埋めていくためにまだまだ読み続けていかなければならないと思っているので、系譜に入りそうなマッドサイエンティストの出てくるSF小説を知っている人がいたら教えてくれると嬉しいです(*‘ω‘ *)