久々に美術館に行ったのでそのお話を書いておこうと思います。
きっかけは栃木県在住の美術好きの友人から「ジョン・ミルトンの『失楽園』が栃木県立美術館に展示されているよ!」という連絡を受けたから。
「な、なんだってーーー!?」
と思わず悲鳴を上げてしまったほど、私は大興奮。
何故なら、ジョン・ミルトン著『失楽園』は私の人生を変えた始まりの作品だと思っているから。
なので片道2時間以上かけてはるばる見に行って参りました!🥰
そもそもジョン・ミルトン『失楽園』とは?
ジョン・ミルトン著『失楽園』は、17世紀イギリスを代表するキリスト教大叙事詩です。
今回展示される絵の作者、ギュスターヴ・ドレはその挿絵を手掛けた人物の一人で、有名な挿絵が『失楽園』のものだけで50点存在します。
元となった話は旧約聖書の創世記に描かれている「アダムとイヴが狡猾な蛇に知恵の実を勧められ、実を食べて楽園を追放される」という原罪の物語です。
『失楽園』はこの物語に着想を得て書かれています。この一連の出来事の裏には陰謀があり、この知恵の実を勧めた蛇は実は神に反逆した堕天使が化けたものだった…!という事が語られるのが『失楽園』なのです。
しかも主人公はこの蛇。
自分たちを地獄に堕とした神に報復せんとやってきた堕天使なのです。
わかりにくいのでちょっとオタク向けに説明すると…
「神に反逆し地獄に堕とされた主人公が神への報復として、神が大事にしている生き物"人間(アダムとイヴ)"を罠にかけようと"楽園(エデンの園)"を目指して旅に出る…所謂、ダークヒーローものである!!主人公の過去を知る者から語られる、天使と悪魔の戦い……そして明かされる主人公の真名は"ルシファー"だッ!」
…という感じ。
仲間内では「まるで少年漫画」と言っています(笑)
読み始めた当時の私は高校一年生。「天使と悪魔の戦いや堕天使の話が読みたい!」という厨二心で読み始めましたが、私はこの作品を読んだことで私の人生が始まったと思っています。
このブログの最後に、翻訳や完訳の紹介をしますね🥰
友達と一緒に栃木県立美術館へ!
都心からはるばる2時間ちょっと。
悪魔学に詳しい友人であり『失楽園』好きの同志でもある江口カイムさんと美術館に行ってきました(*'▽')
どうせなら同志が一緒の方がいいじゃん…!!!
一緒に叫べるし!!
(※勿論美術館内なので小声です)
情報を教えてくれた友人に迎えにきてもらって、美術館まで送ってもらいました!
宇都宮駅からだとバス停が分かりずらいそうなので助かりました!!
栃木県立美術館
https://www.art.pref.tochigi.lg.jp/
このお洒落な美術館が目的地!
勿論館内は撮影禁止です。
なので私の持っている画集からご紹介させていただきます。
これがギュスターヴ・ドレによるジョン・ミルトン著『失楽園』の挿絵!!
「キリスト教における世界の始まり」という内容の展示で、サタン(=ルシファー)が天から堕とされるシーンから始まり、最後、アダムとイヴが楽園を追放されるまでがストーリーの順番に沿って飾られていました。
こんな版画が10枚ほど金縁の額に入ってズラ~~ッと並んでおりました…!!🥰🥰🥰
挿絵は全部で50枚あるのですが、その1/5です。
実物(と言っても版画なのですが)を見て、その迫力と繊細な仕事に圧倒されるばかりでした。
銅版画だとばかり思っていたのですが、木版画らしいです。
こんなに細かいのに!?
繊細な濃淡も、木の凹凸で描かれているということになります。
こんなの人間業じゃないが!!!??!?!?
しかも『失楽園』だけで全部で50枚。
他にも聖書や『神曲』等の挿絵も描いている人なのでこのレベルの作品がその分だけ存在するのです。
神業~!!!
今回の展示テーマは「コレクション展:始まりの美術」。
美術館に保管されているコレクションの中から抜粋して展示されているようなんですが、美術好きの友人によれば「この美術館でギュスターヴ・ドレの絵がこんなに並んだことって今までなかったんじゃないかな~」だそう。
確かに美術館を見学したところ、日本の芸術家の作品が多いのでギュスターヴ・ドレの挿絵を展示テーマに取り入れるのは難しそうです。
一方で全体的に版画作品の展示が多く、「版画に強い美術館なのかな?」という印象を抱きました。
だからギュスターヴ・ドレの挿絵も所蔵していたのかもしれませんね。
しかし日本で、しかも片道2時間ちょっとでお目にかかれるとは思いもよりませんでした…。
本当に貴重な機会でした…!
マジで良かった……!!
「ドレ先生、サタン(=ルシファー)描く時かなり気合入ってる気がするww」
「ルシファーカッコいいからな……主人公だからな……!!!」
などと三人で盛り上がれたのも最高に楽しかった(*'▽')
同志がいるって素敵ね✨✨
その後、江口カイムさんと「これを見る為だけに2時間以上かけて来たんだから……!!!」と何度も最初からじっくり見直して、目に焼き付けてきました( ´∀`)bグッ!
いつか50枚ズラッと全て並んだところも見てみたいものです……!!
おまけ ~グルメ~
勿論宇都宮グルメも食べてきましたよ!!
宇都宮といえば餃子ですね……!
焼き餃子も水餃子も変わり種も本当に美味しかった❤
ミルトン著『失楽園』を入手するには…
現在比較的簡単に手に入るものでは、岩波書店から出ている 平井 正穂 先生の翻訳がオススメです。
もちろん完訳(元々の本を全文翻訳しているもの)です。ただ、やはり叙事詩(決まったテンポで展開される歴史等を語った物語詩)なので、独特の読みにくさもあると思います。また、17世紀のキリスト教叙事詩という事で21世紀の日本とは感性や文化が異なり、前提とされている知識も異なっています。
特にギリシャ・ローマ神話の知識は一通りの神話を知らないと難しいかもしれません。
でも私も何も知らない高校1年生の時に厨二心だけで読めたので、頑張ればきっと大丈夫!いけます!(`・ω・´)+
(しかし私はクリスチャンではないので、ミルトン先生の世界観を深く知る事が難しいのはとても残念に思っている…(>_<))
なお、岩波書店から出ている 平井 正穂 先生の翻訳以外だと、『ドレの失楽園』という本も出ているのですが、こちらは翻案(元の本を基に独自の要素や解釈を加えて書き直したもの)なのでミルトン著『失楽園』とは内容がちょっと違うものです(゜-゜)
『失楽園』と一緒に読むと良さそうなもの
岩波書店から出ている 平井 正穂 先生の翻訳は解説も細かく載っているのでキリスト教やギリシャ・ローマ神話の事を知らなくても大丈夫です。
でも、一緒に旧約聖書の「創世記」第2~3章の部分と、オウィディウス著『変身物語』あたりを読んでおくとよりわかりやすいかもしれません(*'▽')
旧約聖書はこちらのサイトで該当部分を検索すれば読めます!
(『失楽園』の原典として読むなら「創世記」第2~3章がおすすめ)
www.bible.or.jp
こちらがオウィディウス著『変身物語』の完訳(翻訳は中村 善也 先生)。
とはいえ、『変身物語』は長いですからね…
ギリシャ神話をもっとお手軽に知りたい!なら、私の友人でもある藤村シシンさんの『古代ギリシャのリアル』がオススメです(*'▽')
主要な神々の事がわかりやすくわかって内容もとっても濃い!
図もや絵もたくさんあるので見やすいというのもおすすめポイントです!
補足! ~『失楽園』とギリシャ・ローマ神話について~
ギリシャ神話とローマ神話は厳密には違うものです。
でもローマ神話にギリシャ神話が取り入れられて、後代では混同されているのが現状だと思います。
オウィディウス著『変身物語』は紀元前後一世紀くらいの作品ですが、既に混同されています(>_<)
『失楽園』の中では『変身物語』の引用が多いので、私は『失楽園』に登場するギリシャ・ローマ神話は『変身物語』を読めば大体フォローできるものと判断してご紹介しました。
でももし、ギリシャ神話とローマ神話自体を楽しみたい場合は「『変身物語』以降はもう混同されている」ということや「近代に作られて追加された物語も存在する」のを意識してみてみるとなかなか面白いかもしれないです(*'▽')
もう一つ補足ですが、『失楽園』はキリスト教叙事詩。
あれ?キリスト教は一神教なのにギリシャ・ローマ神話が関係してくるのはどうして??
…と思われるかもしれないですが、『失楽園』でギリシャ・ローマの神々は神としては扱われないのでご安心を。
ギリシャ・ローマ神話の知識が必要なのは主に登場人物の動きの描写や風景の描写などの例え話の部分になります。だって、突然「ゴルゴーンのように恐ろしげな」って言われてもギリシャ・ローマ神話を知らないと「…どんな?」ってなるでしょう?(*'▽')
ジョン・ミルトン先生は清教徒ですから、そのあたりはキッチリしている…はず?
でも途中、ジョン・ミルトン先生がナレーションを務める場面で「この物語が完結出来ますように!!」と突然パルナソスの神々(※ギリシャ・ローマの芸術の神々)に祈り始めるので、「締め切り間近の同人作家のツイート」感を感じられて親しみが持てます。
面白いです(笑)
ギュスターヴ・ドレの画集
私は『失楽園』のギュスターヴ・ドレの挿絵を集めた画集として下記の本を持っています。
50枚全てを見てみたいなら是非!