銀座に「Bar十誡」さんという素敵なCafe&Barがあるのをご存知でしょうか?
www.zikkai.com
銀座と有楽町の間くらいのビルの地下を降りていくと、書斎のような書庫のような、アンティークの雰囲気に包まれた素敵な空間が広がっています(*'ω'*)
店内の本を読むことも出来るので、もし生活圏内にあったらフラっと立ち寄ってきっと長居をしてしまうでしょう……人の少ない時間帯に行くとゆったりと時間が流れ、とても快適です。
でも私にとってこのお店が特別な理由は、文学作品や絵画などをテーマにした期間限定カクテルを出してくれること!
そして2023年10月の限定カクテルは……。
- メアリー・シェリー著『フランケンシュタイン;あるいは現代のプロメテウス』
- 二杯目!ブラム・ストーカー著『吸血鬼ドラキュラ』
- その他のメニュー
- 番外:ロバート・L・スティーヴンソン著『ジキル博士とハイド氏』(2022年11月)
- 最後に…
メアリー・シェリー著『フランケンシュタイン;あるいは現代のプロメテウス』
今月は推し文学のカクテルが来ました~!!!°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°
私の(5年前からの)最大の推し、ヴィクター・フランケンシュタインは今作の主人公です。
実は、このカクテルを飲むのは5年ぶり、2度目です。
本は私物。すっかりボロボロになってしまった…。
🧪予告🌡️
— BookCafe&Bar 十誡 (@zikkai) 2023年9月25日
10月の文豪カクテル・モクテル
メアリー・シェリー
『Prometheus(哀しき怪物)~フランケンシュタイン~』
若く才能溢れる科学者・フランケンシュタインが産み出した、世にも恐ろしい怪物の不条理な孤独と絶望の運命を描いたゴシックホラー小説の金字塔『フランケンシュタイン』… pic.twitter.com/BaZdn2cKfb
紅茶色のカクテル本体に浮かぶ黄金色のフルーツ。
新鮮なオレンジと、ドライオレンジがピンで縫い留めてあります。
味は紅茶の印象が強く、柑橘系の香りと風味がいっぱいに広がります。
ジンやカンパリが入っているそうで、アルコールの独特の苦みがありますが全然嫌な感じはしません。
飲みやすくて美味しい。
驚いたのは温度。
「あっ、このカクテルって温かかったんだ!」
紅茶の色にクリーチャー(=怪物)の肌の色、オレンジは目の色を連想するし、何よりその温かさに「生命」を感じる。
これ、「「フランケンシュタインの怪物」のカクテル」として滅茶滅茶完成度高いと思うんですが……!!!
そもそも「フランケンシュタイン」とは
毎度恒例のことではありますが、検索でブログにたどり着いた方の為に……説明します。
まず、「フランケンシュタイン」と聞いて、継ぎはぎだらけでボルトが刺さっているハロウィンの怪物の名前だと思った方。
忘れてください。
経緯を説明すると長くなるのですが、ユニバーサルスタジオ映画『フランケンシュタイン』(1931年)のヒットにより独自路線を突き進んだ映画シリーズの影響で、原作のイメージが上書きされてしまって今日まで至ります。
こっちの独自路線の方が気になった方は、ひとまず一作目と、二作目『フランケンシュタインの花嫁』まで観てから先を見るかどうか考える事オススメします(*'▽')ノ
なんでかって言いますと、2作目で綺麗に終わっているかと思いきや3作目のタイトルは『フランケンシュタインの復活』であり、その後、狼男やドラキュラ伯爵と戦ったりなんやかんやし始めちゃうからです。
ハロウィンモンスターの源流が紐解けるので、ついていける人はついていくといいと思う(投げやり)
では原作はどうなのかと言いますと、映画と共通しているのは「科学者が死体から人造人間を創った」くらいで、ほぼ違う話です。(メディアミックスではよくある事だけど、なんか寂しいね…)
なお、原作とまるで違うのに緑の怪物のグッズが私の私物に散見されるかというと、原作準拠の供給があまりにもなさ過ぎて頭がおかしくなったからです()
まずタイトルですが、正式なタイトルは『フランケンシュタイン;あるいは現代のプロメテウス』。
プロメテウスは人間を創ったギリシャ神話の神様。
主人公ヴィクター・フランケンシュタインのことを指しています。
「フランケンシュタイン」は通称フランケンシュタインの怪物、ヴィクターくんの創った人造人間(この記事ではクリーチャー(=被創造物)と表記)の名前ではないのです。
じゃあクリーチャーの名前は?
「ない」が正解です。名前を付ける前に(お互いに)逃げだしてしまったから。
彼は「名前のない怪物」なのです。
そして、原作のクリーチャーの描写はこちら。
その黄身がかった皮膚では、皮膚のしたにある筋肉や動脈のうごめきをほとんど隠すことができません。確かに、髪は黒くつややかに伸び、歯は真珠のように真っ白ですが、そんな麗しさも、潤んだ薄茶色の眼をいっそうおぞましく際立たせるばかりです。その眼が嵌め込まれた眼窩も同じような薄茶色、顔色もしなびたようにくすみ、真一文字に引き結ばれた唇は血色が悪く、黒みがかっているようにさえ見えます。
メアリー・シェリー「フランケンシュタイン」 芹澤恵(訳)、新潮社(2014)、P109~110
ミイラのよう(という描写もある)な黄色がかった肌(原文では明確にyellow skin)、目は肌に似た色(黄色~茶色の中間くらい?)。髪は黒くて長く、歯も白い。身長は8フィート(2.4m)。
ついでに言うと、継ぎはぎだらけという描写もない…でも身体の均整は取れていない。(初版はちょっと違うのかもしれない?いつか確認しなければならないと思いながら、日本語訳がない為、未確認です…)
ハロウィンの怪物しか知らないと「どちら様ですか?」となる、原作のクリーチャー。
おまけに非常に賢く、自力で言語を習得し、人間の常識や社会秩序を理解し、その上で復讐鬼として自分を創り出した主人公ヴィクター・フランケンシュタインを罠に陥れる。
一方、ヴィクター・フランケンシュタインという主人公は、まだ大学に通っており……厳密には科学者志望の天才大学生。いうなれば科学者のたまご。学生寮でクリーチャーを創り始めたのは19歳の時で、クリーチャーが完成したのは21歳の時。……数字がおかしい気がしますが、はっきり書いてあるので間違ってませんからね??
天才的な能力を持っているにも関わらず、精神的には未熟であり、ベッドに逃げ込んで震えていたり、あまりの恐怖に失神したり……ビビリで繊細で世間知らずの男の子なのです。
なんだか情けないエピソードばっかりのような気がしますが…一応「ホラー小説の主人公」なので…!(私は大好きですよ!!ひ弱な悩める主人公!大好き!!)
ちなみに、創造者(人間など)が被創造物(ロボット、AIなど)に脅かされる恐怖のことを「フランケンシュタイン・コンプレックス」といいます(*'ω'*)
でもクリーチャーにも言い分がある。
創造主(ヴィクター)に興味本位で命を与えられてしまったクリーチャーは、自分がこの世界で唯一の種族であることを知っている。どんなに努力し、優しく接しようとも、人間に受け入れられることはない。
その憎しみの矛先が創造主たる父、ヴィクターへと向いている。
ヴィクターはクリーチャーの言い分を聞いて同情もするけれど、この時既にクリーチャーはヴィクターの身内を手にかけていた。その為ヴィクターは「自分がこいつを創ったから家族が死んだ。家族が死んだのは僕のせい」「こいつは僕の家族を罠にかけて殺した」という自責と憎悪によって、同情する気持ちもかき消されてしまう。
この疑似父子がお互いを理解し合えるタイミングは、再開した時にはもう既に手遅れなのです。
けど…多分クリーチャーが一番愛して欲しかったのは、創造主たる父であるヴィクター・フランケンシュタインだと思う。エンディング読むとついそう思っちゃう。
ええと、簡単に言うと原作のメアリー・シェリー著『フランケンシュタイン』はエモいです。
話は戻って…
初めて十誡さんに来た時も、このカクテル目当てだったんですよね。
この時2018年。
つまり『フランケンシュタイン』出版200周年の年。
この年にもほぼ同じカクテルが出たことがあったんです。著者の半生を描いた映画『メアリーの総て』のタイアップだったと記憶しています。
snow-moonsea.hatenablog.jp
そして2018年っていうと、私が『フランケンシュタイン』を初めて読んだ年であり、私がこのブログを始めた年ですよ……長いようであっという間でしたね。
というか、私は「まだファン歴6年目」だと言っているので。
ヴィクターくんと一緒にお出かけしたくてこのドールを創ったのも2018年。
つまり、2018年は私にとって始まりの年でもあるわけです。
自分の将来やりたい事を真剣に考えて、「ヴィクターくんのイメージ向上に貢献できないかな…」なんて考えるようになった矢先に、またこのカクテルに巡り合えた事のは、個人的に感慨深いものがありますね。嬉しい。
でも本当はクリーチャーじゃなくてヴィクターくんの供給が欲しいです(まぁしゃあない…)
二杯目!ブラム・ストーカー著『吸血鬼ドラキュラ』
でも今年の10月の限定カクテルはこれで終わりじゃない!
ブラム・ストーカー著『吸血鬼ドラキュラ』もあるんです!!
去年か一昨年にも出ていたと思いますが、ちょうど都合が悪くて行けなかったんですよね…!
見た目も可愛い上にお洒落…!
「トリプルベリーのスムージー」という単語がまず美味しそう。
🥀予告🥀
— BookCafe&Bar 十誡 (@zikkai) 2023年9月27日
10月の文豪カクテル・モクテル
ブラム・ストーカー
『Dracul〜吸血鬼ドラキュラ〜』
ヨーロッパの辺境トランシルヴァニアに、無気味な謎に包まれて住む城主ドラキュラ伯爵。… pic.twitter.com/zJ9nyrzBbl
でもX(旧:Twitter)のRTとイイネの数を目で追いながら、「くッ……私の推しが伯爵に圧倒的に負けてるッ」とか思ってました……いいんです、ネームバリューがもうそこで違うから…。
名もなき怪物と(実は大学生でヘタレの)世界一有名なマッドサイエンティストより、ヴァンパイアという概念だけで華があるドラキュラ伯爵の方がいいよね……!!!
でも私は『吸血鬼ドラキュラ』より『フランケンシュタイン』の方が好きだよッッッ!!!
(『吸血鬼ドラキュラ』も好きです)
ベリー系の少しドロッとしたカクテル。
ベリーのつぶつぶの食感と、薔薇の香り。
そして飲む度に鼻に押し付けられるローズマリーの香り。
(ローズマリーは沈めても取り出してもいいそうです)
当然ながら、この組み合わせは本当に美味しいです。
でもベリーは結構口の周りについてしまい、「あっ……これ私が吸血鬼になるやつだ」と気づきました(*'▽')
意識しているのかわからないけれど、ハーブの香りはヴァンヘルシング教授が医学で伯爵に対抗しようとする場面を想起させますね。
意外と知られていない「吸血鬼ドラキュラ」?
一応、ブラム・ストーカー著『吸血鬼ドラキュラ』にも触れておこうと思います。
『吸血鬼ドラキュラ』って、実はあんまり映像映えしない作品だと思ってます。
『フランケンシュタイン』と同様、『吸血鬼ドラキュラ』関係も映像作品はそれなりに観ました。
『フランケンシュタイン』はキャラクターの性格やストーリー展開自体もかなり手を加えられてしまうことが多いのですが、『吸血鬼ドラキュラ』はある一定のエピソードだけを切り張りされることが多い印象です。冒頭のジョナサンがドラキュラ伯爵に招かれるエピソードと、最初の被害者ルーシーが襲われるシーンが多い気がします。
先日映画化された『ドラキュラ/デメテル号最期の航海』は少しマニアックなエピソードで、ドラキュラ伯爵がイギリスへ侵略する為に船に乗る(?)シーンですね。
そして映画だと必ずと言っていいほど出てくるのが、ヴァンパイアハンターのヴァン・ヘルシング教授。
…実は肝心のドラキュラ伯爵との対決シーンって、原作では頭脳戦なんです。
映画みたいなばっきばきのアクションシーンは期待しちゃいけない…!
何故ならヴァン・ヘルシング教授はヴァンパイアの害に対する対処法を知っているだけで、本職はお医者さん…!
『吸血鬼ドラキュラ』の面白いところは、「読者が一連の事件を調べている人」のような視点で読める事。構成が少し特殊で、ジョナサンの日記→ミナの手紙→……といった風に、各章ごとに登場人物の書き残した何らかの手記が並べられている構成なのです。
つまり章ごとに読者の視点である登場人物が変わるので、群集劇のようでもあり、後世に生きる読者がこのドラキュラ伯爵の事件についての資料を時系列で読んでいるという状態にも感じられます。
想い人の仇を打つために恋敵同士が結託する展開も熱いですし、ヴァン・ヘルシング教授が医学と信仰と頭脳でドラキュラ伯爵という上位存在に対抗しようとする姿も熱いです。
『フランケンシュタイン』の名前のない怪物は怪物的な見た目でありながら人間的な感情を持ち、それ故の悲しみと孤独と筋の通った憎悪を抱いています。だからクリーチャーの仕掛ける罠や復讐は主人公の最も苦しむ方法です。話の通じない怪異というより、復讐鬼なのです。
でも『吸血鬼ドラキュラ』のドラキュラ伯爵は明確に怪異であり、登場人物を脅かす上位存在で、捕食者です。変身能力や人間を洗脳したり動物を操る特殊能力も持っており、憎悪関係なく食物として人間を襲います。あと、序盤にある老ドラキュラ×ジョナサンみたいな展開、好きです。もっと詳しく。
どちらも理解し合えない「人ならざる者」ですが、その方向性はかなり違います。
なお、読了した感じは『吸血鬼ドラキュラ』は「わぁ…良かったね…!皆、幸せにね…!!」となりますが、『フランケンシュタイン』は「うわぁぁあああ!!うわあああああ!!!(号泣)」となります。
両方読んだことがある人はわかってくれ。
なお、『吸血鬼ドラキュラ』ではジョナサンが推しですが、人形は作ってません…ごめんね、愛が足りなくて!(笑)
その他のメニュー
おつまみとして、「アブサンチョコレートサラミ」を注文しました!
個人的にこれがミラクルヒット。
アブサン漬けフルーツとナッツが練り込まれたチョコレートなのですが、洋酒入りのケーキが大好きな私には最高でした。
濃厚で、洋酒入りのブラウニーのよう(*'ω'*)vV
付き合ってくれた友人の頼んでいたカクテルやアブサンの飲み比べセットも可愛くて素敵でした…!
ただ、友人曰くアブサンは「アルコールの強さの割に酔いがなかなかこない」らしく、「味は好きだけどハマったら危険な感じがする」とのこと。
確かにアブサンって度数がヤバいし、数多くの芸術家を虜にしたとか、緑の妖精が見える、とかと聞きますからね…(聞いたことあるだけ)
番外:ロバート・L・スティーヴンソン著『ジキル博士とハイド氏』(2022年11月)
去年ブログをお休みしている期間も推し文学が来たので十誡さんお邪魔してました!°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°
ロバート・ルイス・スティーヴンソン著『ジキル博士とハイド氏』です。
私を(色々な)沼に沈めた張本人。
『ジキル博士とハイド氏』がなかったら、多分『フランケンシュタイン』も読んでないんですよね……私にとっては英文学沼の入り口付近に立っていた作品です。
ジキルおじさんに出会わなきゃ、私はヴィクターくんにも会っていないという、こと…?
ランチタイムだったのでノンアルコールでいただきました。
でもこのカクテル、私コンセプトが大好き…!
◇11月の文豪カクテル・モクテル◇
— BookCafe&Bar 十誡 (@zikkai) 2022年11月13日
スティーブンソン『Jekyll and Hyde~ジキル博士とハイド氏~』
馨り豊かな林檎ジュースに薬草シロップを沈め、
ハイド氏がジキル博士を侵食し、醜悪な雰囲気へと変化していく二面性を表現しました。
浮かべたアブサンクランベリーが善と悪の狭間で揺らめきます。 pic.twitter.com/tmqFVsNAL7
アブサンクランベリーがジキルおじさんの心を表しているらしい。
最初は酸味強めの林檎の味。
でもこの逆三角形型のグラスだと、飲み進めるごとに下半分の層と濁っていく。
下の層はハーブっぽい薬草の香りのシロップなのですが、それが濁って上の層である林檎の味と混ざっていきます。
最後はもう、元のりんごの味ではなくなっちゃいます。
マジでこのコンセプト大好きです。
時間が許すなら、もう一回飲みに行きたかった……!!
(でも気軽に行くには遠い…)
ランチタイムの「クリームティーセット」が最高に美味しくておすすめです!
どれも絶品なんですが、このスコーンの味が忘れられないです…。
実際、「ジキル博士とハイド氏」って…
本作の話をすると全てがネタバレになってしまうので、もう開き直ってネタバレ承知で書きますが…
『ジキル博士とハイド氏』もまた、世間一般のイメージと原作とは結構違うと思います。
ただ、この物語を紹介する時に「どの方向から紹介すればいいか、ターゲットによるなぁ」と悩むところです。少なくとも、本作は『フランケンシュタイン』にあった「主人公(ジキル博士)の苦悩を愛でる」方向性の要素は薄いと思います。
「語り部であるアタスン弁護士と共に、親友であるジキル博士の周囲で起こっている奇妙な出来事の謎を解き明かそうとする話」と読むのか、
「3人の50歳英国紳士幼馴染の拗れた人間関係に、得体の知れない謎の青年が乱入して人間関係が更に拗れる話」と読むのか、
「自分の地位と名誉を守りたいがために世間の抑圧に耐えかねた外面の良いおじさんが、薬を飲んでヒャッハーする話」(酷い)と読むのか…
つまり…
推理できない推理小説、つまり怪奇小説として読むか、
50代のおじさん達の人間関係を中心に読むのか、
ジキルの心情を中心に読むのか、という事です。
どの読み方をしても面白いし、むしろ二周目からが面白い小説です。
なお、ハイドちゃんにサイコパス・シリアルキラー要素を期待しているのでしたら、その期待は裏切られると思います……(ハイドちゃんは色々と小さくて可愛い)
でもこれが50歳のおじさんがヒャッハーしてる姿だと思うと面白すぎる。
(色々読み比べたけど、角川版の文末解説が尖ってて面白いです)