海に浮かぶ月のはしっこ

映画や文学作品、神話関連その他の事をおぼえがきしますよ

もうすぐ一度目の人生が終わる ~ カタバシスに向けて

今週のお題は「卒業」。そうそう、もうすぐ私は7年勤めた会社を退職します。
退職に至った直接的な理由は体調不良…ということになっていますが、様々な理由で不信感が募っていたことが理由で、理由は一つだけではないのです。

だけれど退職後の計画を立ててはいても、すぐに移れるように再就職先を用意しているわけではありません。
ただ、今は社長にごねられてごねられて、退職予定日が1ヵ月延び、更に1ヵ月延ばされそうになったので私はブチ切れ寸前。
会社からされてきた仕打ちはここでは語りませんが、疲れが取れなくて、毎日ロキソニンで体調を誤魔化しながら出社している…というところ。

とはいえ7年も務めてしまったから、「この会社での生活ももうすぐ終わる」…と思うと、「イコール、もうすぐ一つの人生が終わる」という気分になる。
仕事を辞めて一息ついた頃の予定で初めて一人で海外旅行に出る計画を立てているので、「7年も惰性で勤めてしまった仕事も辞めるし、今までの自分は死んで新しい私に生まれ変わって戻って来るわ」とギリシャ神話愛好家友達に愚痴をこぼしながら言いました。

言いながら、「まるでカタバシスだね」と笑った…そんな話。



物語構造の形式の一つに「行って帰ってくる物語」というものがあります。
それは神話の時代からあるもので、よく叙事詩(主に英雄譚を語る詩)で見る事が出来ます。

例えば、私の愛してやまないジョン・ミルトン失楽園』も、主人公であるサタンが多くの反逆天使たちと地獄に追いやられ、エデンの園でアダムとイヴを唆し、原罪を負った(≒神を欺いた)事を見届けた後に地獄に戻ってくる物語です。

失楽園 上 (岩波文庫 赤 206-2)

失楽園 上 (岩波文庫 赤 206-2)

近年の作品だと、『マッドマックス 怒りのデスロード』や『千と千尋の神隠し』も「まさにそれな」って感じなわけですけど。

日本の昔話だと「桃太郎」「浦島太郎」「舌切り雀」等もそれに該当しています。
経緯はどうあれ、行って帰ってくる物語。行った先に試練が待ち受けている場合もあるし、行って帰る事だけが試練である場合もあります。


神話界にはその一種に日本語では「冥界下り」っていうものがあります。ギリシャ神話愛好家友達の間では「カタバシス」って言っているんですけど。
「死後の世界へ行って戻ってくる」という荒業ですから、英雄の素質がないとなかなかできないわけです(;´・ω・)

これは去年ギリシャに行ったときにイデの洞窟へ入って行った時の写真。イデの洞窟は生まれたばかりのゼウス神が匿われていた場所とされています。
冥界下りのイメージってこんな感じなんじゃないか、ってツアーメンバーと「疑似カタバシス!」と盛り上がったんですけど。


行って…

奥へ到達して…

戻ってくる。

ギリシャ神話で有名どころというと、「オルフェウス」、「ディオニュソス」、「ヘラクレス」もやっています。「テセウス」も…一応入るのかな…失敗した感が否めないけど…一応帰ってきたことにはなっているし…?(;´・ω・)
行って帰ってくるだけ、って言っても生きた人間の行くところじゃないから下手すると死んじゃうんです。


冥界に降りて地上に戻る、というモチーフは「死と再生のサイクル」を表す時もあります。
豊穣を司る神が冥府へくだり、再び地上に戻っていくという様子が「植物が枯れ、また季節が変わって芽吹く」という様子の喩えになっています。



一度死んで、新しい私として戻ってくる。
私は海外旅行に一人で行くなんて今まで想像したことがないですし、そもそも英語は喋れないので。

私にとっての今回の冥界は今計画を立てているロンドンって事になりそうですけれど、そこもまた、言葉の通じない異世界みたいなもんだから、私にとっては現世ではない所ですよね。添乗員さんと言う名のヘルメス(冥界を案内してくれる神様)がいてくれるけど深淵を覗くなら添乗員さんから離れて一人で探索しなくてはならない局面はありますので。
そのための準備はたくさんたくさん頑張っているけれど、どんなに準備をしてもし足りないような気がしちゃう…。

試練としては大きな試練だと思います。だからこそ度胸や自信はつくでしょうし、日本を脱出する事で気持ちの切り替えにもなりますから、もう古い私はそこにはいなくなっている…はず。

今までの私とはサヨナラして、強くなって戻ってくる。
古代ギリシャを愛し、ハデス神の在り方を愛する私には、再スタートの在り方として私らしくていいかな~
…なんてぼんやり考えています。

それから、一度(儀式的に)死ぬ前に部屋も綺麗にして、昔の私の物は少なくしてしまいたいです。
新しい人生の為に、新しい環境で。


あぁ~、しかし…それを思えば思うほど、辞めるタイミングを遅く遅くずらそうとしてくる社長の存在がとてもしんどい……!!

おぬしがラスボスであったか。

一度目の人生の終わりに向けて、今日も私はしばしの持久戦に耐えるのであった……。