海に浮かぶ月のはしっこ

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【卓上旅行 4】フランケンシュタインのイギリス紀行(ルートマップ付き)

「プランを立てて行った気になるだけじゃなく、本当に行ってみようじゃないか!」と思い立ったその後。
好きな作品のゆかりの地を訪れる事にしてみたけどゆかりの地ってなんだろう?

目的地はイギリス。
とすれば、『フランケンシュタイン:或いは現代のプロメテウス』でイギリスが登場するシーンは…と、作品を見返してみる事にしました。
それが「ヴィクター・フランケンシュタインのイギリス紀行」、です!

これまでのお話

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厄払いついでに7年勤めた会社に退職願いを出した私は、あるきっかけから新しい自分に生まれ変わるための折り返し地点として「海外への一人旅」にチャレンジすることに。目的を「聖地巡礼(=自分の好きな作品のゆかりの地巡り)」と定め、マイブームのゴシック文学ゆかりの地・イギリスの旅を志すも、行きたい場所の具体案がなかなか決まらなくて…?


私が『フランケンシュタイン:或いは現代のプロメテウス』を読んだのは1年前に入院した時の話ですから、大して長いものでもありません。
だけど、この作品……というか主人公である21~24歳程度の豆腐メンタル天才青年ヴィクター・フランケンシュタインは、私を僅か3日程で英文学沼に引きずり込んだ元凶なので、その勢いでいてもいいのかもしれません(*‘ω‘ *)

他の作品についてはまた後々語るとして、今回はヴィクターくんがイギリスを旅した時のシーンについてだけ考えようと思います。


人造人間が自分が目覚めた時にビビッて逃げてしまったヴィクターくんを咎め、自分を愛してくれる存在として新たに人造人間の花嫁を生み出す事を求めて脅迫。脅迫を受けたヴィクターくんは断り切れずに新しい人造人間を作り出す場所は「実家から遠く離れた場所で」と考え、イギリスへ旅に出る事を決意します。しかしヴィクターくんはその時にはすでに鬱病のような症状を抱えていたので、事情を知らない父親は心配し、彼の親友のクラーヴァルと一緒に行くように言う。
こうして、終始何かに怯えている理系青年ヴィクター・フランケンシュタインと事情を知らない文系青年ヘンリー・クラーヴァルのイギリス紀行が始まる………というシーンです。


その観光した場所を、私も見て回る、というのはどうでしょうか。
ヴィクターくんとは趣味のお人形作りの時に何となく気持ちがシンクロしたりして面白かったのですよね。
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お気に入りの物語の登場人物であるヴィクター・フランケンシュタインくんと同じ景色を見て回る……なんだかそれってワクワクしちゃう……!

実際の地名が出てくるので、本文を見て回って、グーグルマップにチェックを入れていくことにしました。

八月の末、わたしは再び祖国をあとにしました。
メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』 芹澤恵(訳)、新潮社(2014)、P.305

勿論、祖国というのはスイスの事です。実家はジュネーヴ

そうして無気力と惰性に身を任せ、馬車に揺られながら何リーグもの旅程をこなすこと数日余り、わたしはストラスブールに到着し、そこで二日間、クラーヴァルがやって来るのを待ちました。
メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』 芹澤恵(訳)、新潮社(2014)、P.306

ヘンリー・クラーヴァルはヴィクターくんの幼馴染で親友。ドイツのインゴルシュタットにある同じ大学に通っている文系大学生です。
ヴィクターくんが実家に不幸があって実家に帰っている間も大学に残っていたと思うので、ストラスブールで待ち合わせたという次第でしょう。ストラスブールはフランスにあります。

ストラスブールからは船でライン河をくだりロッテルダムに出て、ロッテルダムから海路ロンドンに向かうことになっていました。船旅のあいだ、柳のそよぐ島影をいくつも通り過ぎ、美しい街並みも眼にしました。途中、マンハイムに一日滞在し、ストラスブールを経って五日めにマインツに着きました。マインツを過ぎると、ラインの流れはますます絵画的彩色を強めます。河の流れは速くなり、さほどの高さはないものの傾斜が急で姿の美しい山のあいだを、うねうねと蛇行していくのです。切り立った断崖を見あげると、その縁に廃墟となった古城が見えることもしばしば。
メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』 芹澤恵(訳)、新潮社(2014)、P.307

クラーヴァルとわたしは、ケルンを過ぎ、オランダの平野に到着しました。そこから先の行程は駅馬車を利用することになりました。河の流れがあまりにも穏やかで、おまけに向かい風でしたから、船旅を続けていては時間がかかりすぎると判断したのです。
そうなるともう、美しい景色に眼を奪われる機会はなくなりましたが、数日でロッテルダムに到着し、そこから海路、イングランドと向かいました。そして、九月末のある晴れ渡った日に、グレート・ブリテン島の白亜の崖を初めて眼にすることになったのです。テムズ川の岸辺は、それほどまでとはまた趣が異なり、平坦ですが緑に溢れ、眼にする街のひとつひとつに何かしらの物語の面影を認めます。ティルベリーの要塞を見たときには、スペインの無敵艦隊のことを思い出しました。グレイヴズエンドウリッジグリニッジは祖国でも耳にしたことのある地名です。
やがてロンドンに近づくと、数えきれないほどたくさんの尖塔が目を惹きます。ひときわ高いのがセントポール大聖堂で、イギリス史にその名をとどめるロンドン塔も見えてきたのでした。
メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』 芹澤恵(訳)、新潮社(2014)、P.312~313

一気にイギリス観光っぽくなってきましたね(*‘ω‘ *)
しかしスイス→フランス→ドイツ→オランダ→イギリス???ヨーロッパは密集しているとはいえ随分と大移動をしているように聞こえますが…

ロンドン滞在が数か月に及ぼうとするころ、スコットランドに住むさる人物から手紙を受け取りました。以前にジュネーヴのわが家に逗留したことのある人物です。件の手紙で、故国スコットランドの美しさをあれもこれもと並べ立て、これでもまだ自分の住んでいるパースという北方の地まで足を伸ばしてみるつもりにはなれないだろうか、と尋ねてきたのです。
メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』 芹澤恵(訳)、新潮社(2014)、P.316

目的地に「パース」が登場しますが…これスコットランドですから、イギリスのかなり北です。

イングランドに到着したのは十月の初め、そのときはもう二月になっていました。そこでわたしたちは、もうひと月ばかり待ってから北への旅に出ることにしました。スコットランドエディンバラまでは大きな街道が通じていますが、今回はその道筋は取らず、ウィンザーオクスフォードマトロック、それからカンバーランドの湖水地方を訪れ、最終的には七月の末ごろ、目的地に到着するような計画を立てました。わたしは実験器具とそれまでに集めた素材を旅の荷物に加えました。スコットランドの北の高地(ハイランド)の、どこか人目につかない辺鄙な場所で、仕事を終えてしまおうと決めたのです。
メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』 芹澤恵(訳)、新潮社(2014)、P.317

ロンドンを発ったのは、三月二十七日です。ウィンザーに数日滞在し、美しい森を散策しました。クラーヴァルやわたしのような山国育ちの人間には、ウィンザーの森は目新しく映りました。どっしりとした姿のオークの木々、あまたの猟鳥、堂々としていて風格さえ感じる鹿の群れ、どれもこれも初めて見るものばかりでした。
メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』 芹澤恵(訳)、新潮社(2014)、P.317

ウィンザーを発ち、次はオクスフォードに向かいます。町に入ると、一世紀半余りもの昔にこの地で起きた出来事のあれこれで頭がいっぱいになりました。チャールズ一世が兵を集めたのが、この場所だったのです。
メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』 芹澤恵(訳)、新潮社(2014)、P.317~318

オクスフォードにはかなり長いこと逗留しました。町の郊外まで散策の足を伸ばし、この国の歴史上、最も激しく揺れ動いた争乱の時代にゆかりの地を残らず訪ねてみようとしたものです。訪ねた先でさらにまた訪ねてみたい場所が見つかり、ささやかな遠足がちょっとした旅になってしまうこともよくありました。傑物ハムデンの墓を訪ね、かの愛国者が斃れた戦場にも足を運びました。
メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』 芹澤恵(訳)、新潮社(2014)、P.319

名残を惜しみつつオクスフォードを発ち、わたしたちは次なる滞在先のマトロックに向かいました。この村の付近の田園風景には、スイスの風景に通じるものを感じますが、こちらはすべてがこぢんまりとしています。
メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』 芹澤恵(訳)、新潮社(2014)、P.320

それでも、クラーヴァルと共に訪ねた洞窟には驚きに眼をみはらされましたし、規模は小さいながらも博物館には自然が作り上げた珍しい品々が、セルボーやシャモニーの博物館と同じように陳列してあります。
メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』 芹澤恵(訳)、新潮社(2014)、P.320

このマトロック周辺は今でも洞窟探検ツアーがいくつも催されているみたいですね。

ダービーからさらに北上し、カンバーランドとウェストモーランドで二ヶ月ほど過ごしました。このあたりまで来ると、なんだかスイスの山々に囲まれているような気分になります。
メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』 芹澤恵(訳)、新潮社(2014)、P.320~321

カンバーランドとウェストモーランドのあちこちのをまわり、そこに住む人たちの何人かと親しくなり、別れがたい気持ちになりかけたときには、スコットランドの友人との約束の日がもう眼のまえまで迫っていました。
メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』 芹澤恵(訳)、新潮社(2014)、P.322

エディンバラに到着したときには、眼も心もどんよりと曇っているような状態でしたが、それでもこの町は、不幸のどん底にあるものにとってさえ興味深い場所でした。クラーヴァルはオクスフォードのほうが気に入っているようでした。オクスフォードの古めかしさが、彼の好みに合っていたのでしょう。とはいえ、エディンバラの新市街の整然とした美しさ、ロマンティックな城、世界中で最も魅力に富むと言われる郊外の名所の数々―”アーサーの座(アーサーズ・シート)”と名付けられた小高い丘、聖バーナードの泉ペントランド丘陵などを見てまわるうちに、やはり来た甲斐があったという気持ちになったようで、クラーヴァルも陽気な気分を取り戻し、ここでもまた賛嘆の念で胸をふくらませるようになりました。しかし、わたしのほうは、ともかくこの旅の最終目的地に着きたい一心で、気持ちが急いていたのです。
一週間ほどでエディンバラをあとにして、クーパーセント・アンルーズを経て、テイ川沿いに友人の待つパースに向かいました。
メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』 芹澤恵(訳)、新潮社(2014)、P.323

決意に基づき、わたしはスコットランドの北の高地(ハイランド)をさらに北上し、オークニー諸島の中でも本土からいちばん遠い島を仕事場に選びました。
メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』 芹澤恵(訳)、新潮社(2014)、P.325


…ということで、出来上がったのがこちらの地図です。
Google検索でうまく出なかった部分もあるため多少のズレはご了承ください、という感じですが…(;´・ω・)

※説明文の部分に書かれた英文は該当部分の原文です

想像していたより物凄く長い距離を移動している気がします…。
船や馬車を使って移動しているので何か月もかかっていますよね。「旅行」というより「旅」。

これと全く同じルートを辿る事は予算的にもかかる日数的にも不可能です。なのでもしこれを旅行に組み込むのなら、ロンドン周辺のヴィクターくんが訪れた観光地に行ってみる感じになるでしょうか。

私は自分との接点が見つけられないとあまり興味を抱けませんから、「ヴィクターくんが観光した」という理由だとしても、それだけで例えば「ロンドン塔」を観光するのも楽しくなると思うのですよ(*‘ω‘ *)