海に浮かぶ月のはしっこ

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【読書/考察】ヘンリー・ジキル博士を裁判にかけたい:「ジキル博士とハイド氏」の真の探偵はアタスンではなく俺たち…か?

どうしても納得がいかない、頭にひっかかる事があって、3冊の翻訳を読み比べてしまった「ジキル博士とハイド氏」。
その結果、一つの仮説を思いついてしまったのでちょっとまとめようかなと思います。


この違和感…単純に私の読解力がないだけだと思っていたのだけれど……これは一筋縄ではいかないのかもしれない。

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※この記事に登場する原文は洋書版青空文庫「Project Gutenberg(プロジェクト・グーテンベルグ)」から拝借しています。
The Strange Case of Dr. Jekyll and Mr. Hyde by Robert Louis Stevenson - Free Ebook



まぁまず最初にこの小説の原作をご存じない方向けに簡単に説明をすると…。
「物語の進行役である弁護士のガブリエル・ジョン・アタスンには医学博士のヘンリー・ジキルという親友がいる。
アタスンは、夜な夜な街で暴れまわっているというチビで不気味な青年エドワード・ハイドに親友が脅迫されていると思って彼を追う。
しかし、エドワード・ハイドはヘンリー・ジキルが薬で変身した姿だった」

……という話です。

よく「あぁ知ってる、二重人格(解離性人格障害的な意味で)の人の話でしょう?」と言われるのですが、原作を読んだ結果、個人的にはそこらへんが疑わしいと思ってしまったがために考察を続ける羽目になってしまったのでした。

そう……それが問題。

最終章「HENRY JEKYLL'S FULL STATEMENT OF THE CASE(ヘンリー・ジキルによる事件に関する全ての供述)」。これが問題です(;´・ω・)


読めば読む程、彼の供述を信じる事が出来なくなっていくのです。なんとなく、違和感が多くて。
3種類の翻訳を読み比べれば多少は理解できるようになるだろうと思っていたのですが…やっぱり「信用して、いいのか?」という疑問符が浮かんでしまう。


その理由は下記記事でも述べたとおりです。
snow-moonsea.hatenablog.jp

そう、他の登場人物の証言との矛盾が多いのです。
でもそれらの違和感は単に翻訳による表現のブレによるものなのか、よくわかりません。


三冊の翻訳を読み比べ終えた私の感想、それが

「真の探偵はアタスンではなく俺たち…か?」

です。

※読み比べた感想は下記の記事にまとめました
snow-moonsea.hatenablog.jp



では、そう思い至った理由を説明しようと思います(*・_・ *)
まず、物語は下記の章から成っています。

まぁ私の翻訳なので訳が正しいかどうかはご愛敬…何か間違っていたら教えてくださいませ汗

STORY OF THE DOOR(ドアの話)
SEARCH FOR MR. HYDE(ハイド氏を探して)
DR. JEKYLL WAS QUITE AT EASE(Dr.ジキルは落ち着いていた)
THE CAREW MURDER CASE(カルー氏殺人事件)
REMARKABLE INCIDENT OF DR. LANYON(Dr.ラニヨンの驚くべき出来事)
INCIDENT AT THE WINDOW(窓辺の出来事)
THE LAST NIGHT(最後の夜)
DR. LANYON'S NARRATIVE(Dr.ラニヨンの話)
HENRY JEKYLL'S FULL STATEMENT OF THE CASE(ヘンリー・ジキルによる事件に関する全ての供述)

このうち、「STORY OF THE DOOR(ドアの話)」~「THE LAST NIGHT(最後の夜)」の7章分は物語の進行役である弁護士ガブリエル・ジョン・アタスンの視点で物語が進むが、三人称で書かれている

「DR. LANYON'S NARRATIVE(Dr.ラニヨンの話)」と「HENRY JEKYLL'S FULL STATEMENT OF THE CASE(ヘンリー・ジキルによる事件に関する全ての供述)」は"それぞれが自分の遭遇した出来事をアタスンに宛てた手紙で説明する"という体で書かれているため、一人称で書かれている


物語の進行の具合からして、アタスンが探偵役だと思っていたのですが……。
アタスンは、この手紙を読んだ後の感想を述べない。
つまり、この二通の手紙の真偽について登場人物は議論しません。

確かにアタスンは進行役で、事件に遭遇する中心人物の一人ですが……彼の目線ではあるけれど彼の一人称ではありません。だから、読者=アタスンではありません。
感覚としては、画面の中でアタスンが動いている……映画を見せられている感じに近いと思う。


じゃぁこの二通の手紙はどうか、というと、二人の証言を並べるとどうしてもヘンリー・ジキルの供述に妙な違和感を感じる。
そのうえ、ヘイスティ・ラニヨンの手紙はアタスンに話しかけるように書かれているのだが、ヘンリー・ジキルの手紙はアタスンに宛てた手紙のはずなのに出だしが、

I WAS born in the year 18—

私は18××年に生まれ(私訳)…


と、自分の自己紹介である。
アタスンとジキルは何十年もの付き合いの親友であるはずなのに何故今更こんなことを?
まるで…アタスンではなく読者に話しかけているような…或いは、法廷に立った容疑者が裁判官と陪審員に話しているような…?


ヘンリー・ジキルがエドワード・ハイドの行動について、手紙の序盤では「私」として自分の行動として書いているにもかかわらず、突然「もう私とは呼べないので」とエドワード・ハイドの行動の責任を放棄するくだりがある。

もしヘンリー・ジキルの言葉を100%信じるならばエドワード・ハイドは勝手に行動を始めて、ヘンリー・ジキルを憎み、彼の私物を滅茶苦茶にしたと考えられはするのだけれど……。



いや、でも。
ラニヨンに助けを求めるくだりが分かりやすいが、ヘンリー・ジキルの筆跡で手紙を書いてラニヨンに助けを求めたエドワード・ハイドは、ラニヨンによって用意された薬の材料を確認した時、猛烈に安心して泣きそうな声を上げる行動をしたかと思えば、フッと冷静になって調合にかかる。

その後に言った台詞がこれである。

"Lanyon, you remember your vows: what follows is under the seal of our profession. And now, you who have so long been bound to the most narrow and material views, you who have denied the virtue of transcendental medicine, you who have derided your superiors— behold!"

ラニヨン、君は(君の)誓いを覚えているな。(その誓いは)私達の職業の証の元にある。
そして今、君は長年にわたり最も狭くて物質的な見方に縛られている。
超越的な薬の美徳を否定した君。君の優位者(君よりも優れた者)を嘲笑った君。
見たまえ!」(※私訳)

私達の職業。
ヘンリー・ジキルとヘイスティ・ラニヨンは親友であると同時に同業者である。だから医者、という事になりますが。

でも、何故この台詞をエドワード・ハイドが言うのでしょう?


(ちなみにラニヨンが彼の変身を見て、更にはハイドのしでかした事を知って怯えてしまった事を、ジキルおじさんは「しかし彼の恐怖など自分のしたことを嫌悪する私の思いに比べたら物の数にもはいらない」等と言っているけれど、この「自分のしたこと」とは、「薬を作った事」にかかるのか「ハイドの(姿でした)行動」にかかるのか…どっちなのだろう?)



こうなってくると彼の証言のあら捜しをせずにはいられなってくる。
彼は本当に本当の事を話しているのだろうか?彼の証言をそのまま信じていいのだろうか?


もし彼の供述の矛盾を突いたら「エドワード・ハイドが(自我を持っていて)勝手に行動した」は成立するのでしょうか?
ヘンリー・ジキルの作った薬は隠していた本性を曝け出すだけで自我を持つ分身を生み出すわけではないのでは?
更に悪意を持って見れば、ヘンリー・ジキルの作った薬は分身を生み出すものではなく、ただの変身薬であり、自分を擁護するために分身が勝手にやったと言い始めたとも言えるのでは?


私の感想は
「お前絶対自覚あるだろ (-.-)」
なんですが…(=酔っぱらって暴れた挙句「酔っぱらってたんだからしょうがないだろ!」って言っている人、みたいな感じだと思っている)


でも本人は死んでいるし、アタスンも自分の考えを明らかにしない。
この物語の真相は読者の判断に委ねられているのではなかろうか。

つまり、この物語の真の探偵は読者ではなかろうか。
しかしそれは即ち私が原書を読んで証拠や矛盾を紐解くということでもある。


そんなことを色々と考えていましたら、他の登場人物たちの証言を並べて検証し、彼の証言の真偽を審判したいと思うようになりました。
そう、ヘンリー・ジキル博士を裁判にかけたいのです。(勿論仮想ですけれどもね?)


…と、そういうわけで原書ベースで考察するしかないな~と思うに至ったのですけれど、私は中学時代から英語の成績が底辺でしたので苦戦を強いられている次第なのです(;^ω^)

翻訳には主にweblio英和辞典を利用しており、少しずつ読み解いていこうという覚悟です。
(ちょいちょい今作の文章が例文で出てきますが…まぁ参考までに利用しています。)
英和辞典・和英辞典 - Weblio辞書



…なんだか当初の目的からそれてきた気がするんだけど…。
飽きるまでやってみようかな、と思っています。