「ジキル博士とハイド氏」の読者の目線…進行役、弁護士のガブリエル・ジョン・アタスンおじ様。
アタスンおじ様はなぜか(翻訳の)本文中で「哀れなヘンリー・ジキル」と親友を哀れみまくる。やたらと目につく。一体何回言ってるんだよ。というわけで、数を数えてみた……のが前回までのお話。
今回、ついに原文に手を出したのであります。
さてアタスンおじ様、一体何回親友を哀れむのでしょうか?
なお、このイメージイラストはエドワード・ハイドと初めて遭遇した時のアタスンおじ様の妄想を勝手に想像して描いたものです(^▽^; )
- 概要:ルール
- 1回目: O my poor old Harry Jekyll
- 2回目:Poor Harry Jekyll
- 3回目:poor Jekyll's worst would be like sunshine.
- 4回目:poor Harry, what a wakening!
- 5回目:I am uneasy about poor Jekyll
- 6回目:of which the poor soul
- 7回目:I believe poor Harry is killed
- まとめ
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概要:ルール
目的としては、新潮文庫版では全て「哀れな」と訳されるが他の翻訳では必ずしも「哀れな」とは訳されないので、原文では差異があるのかどうかを確かめる。
その為、計測のベースにするのは新潮文庫版。
新潮文庫版でページ数は7〜144ページ。うち、アタスンおじ様の視点で動くパートは7〜96ページ。
- 作者: ロバート・L.スティーヴンソン,Robert Louis Stevenson,田口俊樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2015/01/28
- メディア: 文庫
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ルールとしては「哀れなヘンリー・ジキル」の他、「哀れなヘンリー」「哀れなジキル」のバリエーションは数える、とする。
……と思ったんですが、アタスンおじ様は原文では「ヘンリー」ではなく「Harry(ハリー)」って呼んでるんですね(*‘ω‘ *)
原文は洋書版青空文庫「Project Gutenberg(プロジェクト・グーテンベルグ)」から拝借しています。
The Strange Case of Dr. Jekyll and Mr. Hyde by Robert Louis Stevenson - Free Ebook
流石は130年前のベストセラー小説。パブリックドメイン化されております。
(※翻訳は引用の扱いですよ、勿論)
このテキストデータから「poor」の単語で検索をかけて抜粋しました。
ちなみにこちらが元々の記事。
snow-moonsea.hatenablog.jp
1回目: O my poor old Harry Jekyll
アタスンがエドワード・ハイドと初めて遭遇し、その不気味で不快な雰囲気に彼に脅迫されていると思しき親友ヘンリー・ジキルを心配するシーン。
The last, I think; for, O my poor old Harry Jekyll, if ever I read Satan's signature upon a face, it is on that of your new friend.
ああ、哀れなヘンリー・ジキル。悪魔の署名が人の顔に読み取れるなら、それはきみのあの新しい友人の顔にこそある。
ロバート・L.スティーヴンソン「ジキルとハイド」田口俊樹(訳)、新潮社(2015)、P.32
2回目:Poor Harry Jekyll
エドワード・ハイドに遭遇したショックを抱えたまま親友の家に行ったが会う事が出来ず、とぼとぼと家に帰るシーン。
And the lawyer set out homeward with a very heavy heart. "Poor Harry Jekyll," he thought,
アタスンはひどく憂鬱な気分のまま家路につき、「哀れなヘンリー・ジキル」と胸に呟いた。
ロバート・L.スティーヴンソン「ジキルとハイド」田口俊樹(訳)、新潮社(2015)、P.35
3回目:poor Jekyll's worst would be like sunshine.
アタスンが「若い頃のヘンリーは放蕩者だったし、そのツケが回ってきたのか…いやいや、あのハイドと比べればヘンリーの一番の秘密だって輝くくらいだろう」と思ったりするシーン。
"This Master Hyde, if he were studied," thought he, "must have secrets of his own; black secrets, by the look of him; secrets compared to which poor Jekyll's worst would be like sunshine.
この男の秘密に比べたら、哀れなジキルの一番の秘密でさえ、まるで太陽のように輝いて見えることだろう。
ロバート・L.スティーヴンソン「ジキルとハイド」田口俊樹(訳)、新潮社(2015)、P.36
4回目:poor Harry, what a wakening!
(恐らくは「少女の事件の時には、きっと寝ているところをハイドにたたき起こされたのであろう」と思った事を踏まえて)アタスンが「ヘンリーはハイドにいつ殺されてもおかしくない状況に置かれているに違いない」と確信するシーン。
It turns me cold to think of this creature stealing like a thief to Harry's bedside; poor Harry, what a wakening!
あの化け物が盗人のようにヘンリーのベッドの脇に忍び寄る姿を想像しただけで、悪寒が走る。ああ、哀れなヘンリー、きみはなんという目覚めを迎えているのか!
ロバート・L.スティーヴンソン「ジキルとハイド」田口俊樹(訳)、新潮社(2015)、P.36
ノーカウント:My poor Utterson
ジキルおじさんの台詞なのでスルー。
ジキルがアタスンに奇妙な内容の遺産相続書を承認させた事を「あぁ哀れなアタスン。こんな変な依頼を受ける事になって」と言うシーン。
A close observer might have gathered that the topic was distasteful; but the doctor carried it off gaily. "My poor Utterson," said he, "you are unfortunate in such a client.
5回目:I am uneasy about poor Jekyll
アタスンが親戚のリチャード・エンフィールドとの散歩中、引きこもっているジキルを心配して研究室の近くまで足を延ばすシーン。
"But if that be so, we may step into the court and take a look at the windows. To tell you the truth, I am uneasy about poor Jekyll; and even outside, I feel as if the presence of a friend might do him good."
そういうことなら、袋小路に入って、窓だけでも眺めてみようじゃないか。正直なところ、哀れなジキルのことがどうしても気になってね。
ロバート・L.スティーヴンソン「ジキルとハイド」田口俊樹(訳)、新潮社(2015)、P.69
6回目:of which the poor soul
アタスンが「ジキルは身体が変形する重病(※新潮文庫では"梅毒"と解説されている)に侵され、薬を作り続けているのでは」と考えて神に祈るシーン。
Your master, Poole, is plainly seized with one of those maladies that both torture and deform the sufferer; hence, for aught I know, the alteration of his voice; hence the mask and the avoidance of his friends; hence his eagerness to find this drug, by means of which the poor soul retains some hope of ultimate recovery—God grant that he be not deceived!
哀れなジキルーー神よ、願わくば彼の望みが欺かれませんように!
ロバート・L.スティーヴンソン「ジキルとハイド」田口俊樹(訳)、新潮社(2015)、P.82
7回目:I believe poor Harry is killed
ジキルの執事が「ご主人様は(ハイドに)殺された」と主張するのを、アタスンがやむなく認めるシーン。
Evil, I fear, founded—evil was sure to come—of that connection. Ay, truly, I believe you; I believe poor Harry is killed; and I believe his murderer (for what purpose, God alone can tell) is still lurking in his victim's room.
ああ、確かに。きみの言う通りだ。哀れなヘンリーは殺されたんだ。
ロバート・L.スティーヴンソン「ジキルとハイド」田口俊樹(訳)、新潮社(2015)、P.85
まとめ
翻訳で数えた回数をベースに数えましたが、全部で7回ですね。
snow-moonsea.hatenablog.jp
新潮文庫版で毎回「哀れ」と翻訳されている事に違和感があったのですが、全て「poor」が原文なので表記ブレがない事が正解のようです。
先日派生作品で「哀れなヘンリー」がネタにされているのを見てしまったのでついついニヤリとしてしまうのでした(笑)