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【雑記/M.S.F.P.】フランケンシュタインは「科学なんてもう嫌だ」と何回思ったか?

フランケンシュタインが「科学なんてもう嫌だ」と何回思ったか」…っていう字面だけで、現在に構築されたイメージとのギャップで、(私が)一瞬パニックになる感覚が楽しいです。

ふと思い出すだけで数回は「科学なんてもう嫌だ」と思っているはずだけど、一体何回思ったのでしょうね。(きちんと数えてないので数えたデータはきっちり数える気になったら記事にします)

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今回はとりとめもなく思ったことを書き殴ります。


フランケンシュタイン~或いは現代のプロメテウス」原作を読んでいて、とにかくヴィクター・フランケンシュタインのキャラクター性に驚かされ…あまりに若くて所謂"ヘタレ男子"だったので「可愛い!ヴィクターくん超可愛い!」と本を勧めた友人にLINEしまくった挙句、今や(当)ブログを立ち上げる程度にお気に入りに。だって、可愛い。

けれど、「ついに"23歳豆腐メンタル天才大学生"を「可愛い」と言う年齢になってしまったか…!」と自分の年齢と感覚に軽くショックを受ける私(アラサー・独身女性)。でも、可愛い。

「科学なんてもう嫌だ!」

表題の「科学なんてもう嫌だ」という文字通りの台詞が存在するわけじゃないのですが、ヴィクターくんが主に精神的な要因で科学に関わる事自体が精神的苦痛になっているシーンが本編でも何回かあるのですよね。

ヴィクターくんのキャラクター性として、甘やかされて育ったお坊ちゃんであり、でもそれを鼻にかけて人を見下すようなタイプではなく、聞き分けの良いよい子に育ったような感じがするけれど、その一方でストレスに物凄く弱い感じがする。
親に勧められて進学した大学で友達を一人も作れなかったうえに、少年時代は錬金術に傾倒していたことを意地悪な教授にからかわれ、科学に関わる事が嫌になって引きこもってしまう。
「科学なんてもう嫌だ」である。

人造人間が目覚めた時、「動いたら気持ち悪かった」という理由で怖くなって逃げ、パニックの挙句に気絶して何か月も熱に魘されるという一連の行動が"フランケンシュタイン博士"のイメージとかけ離れていたことだけれど、

またこの人造人間の一件で科学に関わる事が嫌になって、実験器具を見るだけで精神的に追い詰められてしまい、引きこもってしまう。
「科学なんてもう嫌だ」である。

引きこもる彼の事情をしらない教授たちの皮肉や心配の言葉の数々を、親友のヘンリー・クラーヴァルが助けてくれるのが献身的でほほえましい。なんとなく事情を知っているがヴィクターくんの事を思って詮索はしないあたりも本当にいい人!
ジキルおじさんの親友・アタスンおじ様といい、気弱なマッドサイエンティストの脇には聖人君子がいるものなのかしらね…。

マッドサイエンティスト×悲劇の主人公

ヴィクターくんは能力の高さと精神年齢が噛み合っていないというか。そういうアンバランスさを感じる。
人造人間を作った動機についても、恐らくは大学進学直前の母親の死が心の傷になっていたのだろうと思いますが、人造人間の設計についても「どうせなら大きいほうが思ったので実際の人間よりも大きく作る事にした」などと中学生男子みたいなテンションである。
繊細な心の持ち主でありながらも、好奇心は子供のようで、しかし人見知りで他人に相談することを苦手とするコミュ障。オタク気質とも言えるかもしれません。

ステレオタイプマッドサイエンティストというと、人の話を聞かない、常識の通じない、バーサーカー系というかそういう感じの人物を思い浮かべてしまうのですが。
マッドサイエンティストの祖」といわれるヴィクター・フランケンシュタインは、(科学の倫理を無視する者という意味での)マッドサイエンティストである事は間違いないけれど、同時に恐ろしい怪物に身内を次々に殺されていく悲劇の主人公でもある。
身内を次々に殺されていく主人公は繊細な人が多い気がするので、どちらかというと後者の側面が強いのかも。

勿論、フランくん(仮)はただ一方的に狂暴で手の付けられない怪物というわけではないという所が、私の(そして恐らくはこの不気味で恐ろしい側面を持つ哀しく美しい物語を愛してきた先人たちも)心をつかんだのだと思うのだけど。


ヴィクターくんが少年時代にアグリッパ、パラケルススの著作に傾倒し、独学で錬金術を学んでいたことを思うと、ついつい「鋼の錬金術師」を思い出してしまいます。
母親の死をきっかけに錬金術に傾倒した兄弟が、人体生成という罪を犯し…というくだりから始まる有名な漫画作品。

有名作品だし私が説明するよりは読んでいただいた方が絶対良いと思うので「鋼の錬金術師」に関する説明は省くけど…。
動き出した人造人間の姿を見たヴィクターくんは「もっと美しいものが出来上がるはずだった」「こんなはずじゃなかった」と怯える姿。大変な事をしてしまったと思い知り、「科学なんてもう嫌だ」と逃げ回るヴィクターくんの姿とか。なんとなく、迷い、苦しみ、否定する時の序盤のエドワードの姿に似ている気がして。
残念なことに、ヴィクターくんにそれを踏み台にして戦う気概はないのだけど。
だから「悲劇の主人公」なんだろうなぁ。



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