海に浮かぶ月のはしっこ

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【読書】アイソーポスとイソップ寓話…彼もまた「沼」

文学部卒だけど古代ギリシアにハマり過ぎて、中世以降の名作文学をほとんど読んで来なかった私。
(J・ミルトン「失楽園」は別腹です!)

そんな私が大学時代にハマった著者の一人(と言っていいのか)に、「アイソーポス」という人物がいる。
恐らく、彼の名前は英語カタカナ表記の「イソップ」の方が馴染みのある人の方が多いのではないかな。


アイソーポスは紀元前619年頃の古代ギリシアの寓話作家です。
現在「ウサギと亀」や「金のがちょう」等、子供向けの絵本の題材にされている通称・イソップ寓話の作者とされる人物。

でも通称・イソップ寓話は決して子供向けの物語ではなく、社会風刺を含んだ皮肉や処世術、教訓譚といった物語です。アイソーポスが古代ギリシアの人物ということで、ギリシア神話の神々が寓話に登場することもあって、ギリシア神話好きの私は大いに喜んだわけです。
そして「今まで知ってた気がしていた物語と全然違う!」という、今私が近代名作を読もうとしている動機と同じことが起こっていました。

アイソーポスの寓話自体は岩波書店版で一通り読みました。

イソップ寓話集 (岩波文庫)

イソップ寓話集 (岩波文庫)

大学時代はこれを読んで自分なりに物語自体の解釈や考察を入れていくことが一つの楽しみだったのだけど、大学を卒業してからアイソーポス自身について考える機会がありました。

演出家をしている友人が主催するパフォーマンス交流会・ピクニックシアター(詳しくは最近参加した記録について書いた下記記事を参照のこと)に参加した時の事。
snow-moonsea.hatenablog.jp
一時期、イソップ寓話を紙芝居アレンジしたシリーズを作って持って行っていたことがありました。
その導入編としてアイソーポス自身の紹介もしましたね。

その時は「アイソーポス自身はその知性と処世術によって奴隷身分から市民になった伝説的な人物で、現在イソップ寓話とされているものも全てアイソーポスが作ったものというわけではないらしい。」くらいの簡単なものでしたが。

けれどそれも何年も続けているとそれなりの本数になったので、描きおろしを加えて、所謂同人誌にしてコミティアの神話部で出品したことがあります。

【ギリシア神話】「コミティア118【T28a】 作品一覧(紙芝居絵本/アクセサリー」イラスト/雪代 月 [pixiv]

その描きおろしを描いている時に、「アイソーポス自身のことについてもっと知らなくては」と思ったのです。
でもこれがまた……いわゆる「沼」でして。

参考文献としてはちくま新書出てている中務哲郎先生の「イソップ寓話の世界」を読んだのですが。

イソップ寓話の世界 (ちくま新書)

イソップ寓話の世界 (ちくま新書)

ここで触れられている「イソップ伝」の翻訳がどうしても見つからない。
インターネットの検索で見かけたHPで「イソップ伝」について詳しく述べられているものがありましたが…
分かった情報はイソップ寓話自体が様々な時代でリメイクされているという沼も凄いが、イソップ伝の写本もいくつかバージョンがあるらしく、どの翻訳も絶版である、という感じでしょうか。

とりあえず一筋縄ではいきそうにない…ということしか。

Amazonで検索すれば、イソップ童話という名前で読み切れないくらいの本がヒットするのだけれど、彼自身の事は少ないですね。けれどイソップ寓話の処世術的側面に注目した実用書的なものもたくさんヒットするので、アイソーポス(と彼を真似た寓話作家たち)の本質を見抜く力が本当に優れていたのだなぁと感心するのです。

残念ながら、イソップ伝というタイトルで翻訳を見つける事はできませんでしたが、絶版になっている本の中からイソップ伝の翻訳が載っているものがあるようなのであたってみようと思っています。

ここ数年、所謂同人誌のためにギリシア神話やJ・ミルトン「失楽園」に関する解説漫画的なものばかり描いているので今回のアイソーポス(再び)も解説漫画寄りの何かになりそう。でも紙芝居のおまけに付けた解説漫画よりはレベルが上がったところを見せたいので資料集めは欠かせないですねぇ。


※関連

失楽園 上 (岩波文庫 赤 206-2)

失楽園 上 (岩波文庫 赤 206-2)