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【読書:考察】フランケンシュタインの怪物が復讐鬼になった理由=ヴィクター・フランケンシュタイン不器用説

""フランケンシュタインの怪物"が人々から畏れられ、絶望の果てに人々を殺めた、そもそもの原因はヴィクターが不器用だったからじゃね?"…と、いつものように本文を引用しながらゆるゆる考察する記事です。
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さあ、今日もヴィクターくんの話をしよう(*‘ω‘ *)

snow-moonsea.hatenablog.jp
で少し触れましたが、今日の記事では「ヴィクターくんが逃げ出した理由」についてまとめる事にします。


さて、"フランケンシュタインの怪物"については何度も言っておりますが、「フランケンシュタイン」は1818年(ちょうど200周年!)の小説で、

フランケンシュタイン (新潮文庫)

フランケンシュタイン (新潮文庫)

フランケンシュタインは主人公の名前で、主人公は博士号のない卑屈な天才大学生で、人造人間は継ぎはぎだらけではないし頭にボルトとか刺さってないし滅茶苦茶喋るし滅茶苦茶賢い。
とりあえずそれだけ覚えてくれると嬉しいなッ!(投げやり)


そんな"フランケンシュタインの怪物"には、名前がない。
ヴィクターくんは怯えて彼の事を「怪物!鬼!悪魔!」と言うような有様なので名前はつかなかった。
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なので一応仮に"(ヴィクターくんの)息子さん"と呼ぶことにします。
ヴィクターくんが19歳の時に取得した「命なきものに生命を吹き込む技術(※詳細不明)」により、21歳の時にその謎の技術によって誕生した子で、でかいけど2歳です(;^_^)

息子さんは愛読書の『失楽園』の影響からか、ヴィクターを「創造主」、自分を「創造主に作られた最初の人間、アダム」といいます。ええ、とても賢い。

失楽園 上 (岩波文庫 赤 206-2)

失楽園 上 (岩波文庫 赤 206-2)

失楽園 下 (岩波文庫 赤 206-3)

失楽園 下 (岩波文庫 赤 206-3)

ジョン・ミルトン失楽園』は聖書の創世記にあるアダムとイヴの原罪の裏に悪魔による陰謀があった、と語る17世紀出版の叙事詩です。私の愛読書でもある(-ω-*))
わずか2年で見よう見まねで言語と文字を習得し、それだけでなく歴史や法律の知識も得ています。(その時の彼の苦労については、本編2巻でどうぞ!)


そんな息子さんは父であるヴィクターくんを憎み、彼を脅迫し、やがて復讐をすることに執着していく。
その理由は自分を見捨て、なおかつ自分を拒絶し、一度は(息子さんの脅迫によって)差し伸べた救いの手を途中で投げ出されたことによる。

息子さんが復讐鬼になったのはヴィクターくんに意気地がなかったからなのだけれど、そもそも息子さんのビジュアルが怖すぎる、という事も要因である。



まず先に言っておきますが、継ぎはぎだらけというビジュアルはありません。パーツや材料を集めた旨の記述はあるものの、何となく「最初から造形をやっていそう」な雰囲気を文章から感じるので造形はヴィクターくんが自分で行ったと思います。
それに、単純に死体をつなぎ合わせただけではヴィクターくんの造った人造人間スケールと合わない。
どうやって造ったか、については下記の記事でも考察していますが「よくわからない」という印象です。
snow-moonsea.hatenablog.jp



さて、そんなヴィクターくんの息子さんのキャラクターデザインは以下の通りだ。

その黄身がかった皮膚では、皮膚のしたにある筋肉や動脈のうごめきをほとんど隠すことができません。確かに、髪は黒くつややかに伸び歯は真珠のように真っ白ですが、そんな麗しさも、潤んだ薄茶色の眼をいっそうおぞましく際立たせるばかりです。その眼が嵌め込まれた眼窩も同じような薄茶色顔色もしなびたようにくすみ、真一文字に引き結ばれた唇は血色が悪く、黒みがかっているようにさえ見えます。

メアリー・シェリー「フランケンシュタイン」 芹澤恵(訳)、新潮社(2014)、P109~110

甦ったミイラとてあれほどおぞましい姿はしていますまい。まだ未完成のうちに見たときにも、ずいぶん醜いものだと思いましたが、あの者の筋肉が力を得て、関節が動くようになると、それはもう、あのダンテですら思い及ばないほどの姿だったのです。

メアリー・シェリー「フランケンシュタイン」 芹澤恵(訳)、新潮社(2014)、P112

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おい!!未完成のうちから「あっ…なんか造形上手くいってない…」って自覚あったんかい!!!

しかも、ヴィクターくんの設計上、滅茶苦茶でかいのである

身の丈を八フィートとして、

メアリー・シェリー「フランケンシュタイン」 芹澤恵(訳)、新潮社(2014)、P102

8フィートって、約250cmです。
でかすぎだろう!!!!普通に考えて2.5mの大男とか、普通の1.5倍近くないですか!?

醜い醜くないの問題以前に、そんな大男がいたらビビるでしょう…。
2.5mですよ?たとえテディベアみたいなもふもふファンシーな見た目だったとしても、立ち上がっただけで怖いよ(;´・ω・)



そしてヴィクターくんは意気地がないので逃げ出したのです。

息もつけないほどの恐怖と嫌悪感が、わが胸を満たすのです。自分が創りだしたものの姿に耐えられず、わたしは部屋から飛び出し、寝室に駆け込みました

メアリー・シェリー「フランケンシュタイン」 芹澤恵(訳)、新潮社(2014)、P110

ヴィクターくん、とりあえず落ち着こうと何もなかったことにして寝ようとしている辺りが残念である。(寝られないんだけど)

わたしはあの者を見たのです――わたしが創造したあの哀れな怪物を。怪物はベッドのカーテンを持ち上げて、あの眼で――あれを眼と呼べるなら――こちらをじっと見つめていました。それから、顎を動かし、頬に皺が寄るほど口元を緩め、歯を剥き出して、何やら不明瞭な音を発しました。何かしゃべったのかもしれませんが、わたしは聞いてませんでした。あの者がこちらに片手を差し伸ばし、どうやらわたしを捕まえようとしているようでしたが、それを逃れて一目散に階下へ駆け降りました

メアリー・シェリー「フランケンシュタイン」 芹澤恵(訳)、新潮社(2014)、P111

ヴィクターくんの逃亡はそれだけれは終わらない。町に飛び出した挙句、幼馴染で唯一の親友、ヘンリー・クラーヴァルがインゴルシュタットに到着したところだったので再会し、嫌々研究室に戻ったと思ったら、病気になって何か月も寝込む。

怪物に捕まえられたような気がして、わたしは激しくもがきました。そしてもがいているうちに気を失って倒れてしまったのです
クラーヴァルには、なんと気の毒なことを!いったいどんな気持ちだったでしょう?愉しみにしていたはずの再会が、わけもわからぬまま、一転して苦々しいものになってしまったのです。しかしながら、わたしはクラーヴァルの嘆きを実際に眼にしたわけではありません。人事不省に陥ったまま、それから長いこと、本当に長いこと、意識が戻らなかったのです。
これをきっかけに、わたしは神経を病み、その後何ヶ月も寝ついてしまいました。その間、クラーヴァルがひとりで看病をしてくれました。

メアリー・シェリー「フランケンシュタイン」 芹澤恵(訳)、新潮社(2014)、P118~P119


まぁ、それほど怖かったということなのでしょう…


一方、この姿のせいで息子さんは行く先々で酷い仕打ちを受けることになります。
密かに生活を陰から支えていた家族に姿を見られ、逃げ出されたかと思ったら、女の子を助けようとして銃で撃たれたこともある。

女の子はそのまま切り立った川縁を走っていたのだが、途中で不意に足を滑らせ、川に落ち、急な流れに呑み込まれた。おれは隠れていた場所から飛び出すと、水流が強くてかなりの奮闘を強いられたが、その子を救いだし、岸辺に引っ張りあげたのだ。

メアリー・シェリー「フランケンシュタイン」 芹澤恵(訳)、新潮社(2014)、P277

おれを見るやいなや、男は駆け寄ってきて、おれの腕から女の子を奪い去ると、森の奥に向かって歩きだした。おれも急いであとを追った。なぜ追いかけたりしたのか、それはおれにもよくわからない。すると、男はおれが近づいてくるのに気づいて、持っていた銃を構えた。そしてこちらに狙いをつけ、発砲したのだ。おれは地面に倒れ込んだ。男のほうはそれまでよりもさらに足を速めて、森の奥に逃げ込んでいった。
善意の報いがこれか!人ひとりの生命を救ってやったというのに、その代償として肉を裂かれ、その傷の耐えがたい痛みにのたうちまわっているのだ。つい今しがたまでは優しく穏やかな心持ちになれていたのに、今は地獄の業火のような憤りに歯ぎしりをすることになった。痛みに身を灼かれ、おれはすべての人類に対して、永遠の憎しみと復讐を誓った

メアリー・シェリー「フランケンシュタイン」 芹澤恵(訳)、新潮社(2014)、P277~278

……と、このようにFGO(ゲーム)では言葉を話す事もままならないバーサーカー(狂戦士)というクラス(カテゴリ)についている"フランケンシュタインの怪物"だけれど、原作はどう見てもアヴェンジャー(復讐者)です(;^_^)


その後、自分を捨てたヴィクター(捨てたっていうか…逃げた。)への復讐のために悲しすぎる結末へと歩み始めますが…。
ヴィクター自身には直接手を下そうとしない辺りが復讐鬼としてレベルが高い気がします。


とはいえ、ヴィクターくんの過ちはそもそも「生き物を造る」という禁忌を侵した事ですし、ヴィクターがその上で怖くなって逃げだしたことも過ちです。…いや、豆腐メンタルを自覚していなかったのでしょうけど。
息子さんに恐怖心を持つばかりで結局何も出来ないのです。身内を救う事も。
父なる創造主(ヴィクター)に縋るしか救われる術を持たない息子さんを救う事も。

おまけに、過ちを侵した末の自分の責任の取り方を迷ったせいで事態を悪化させた、自分の責任の取り方を決めた決意が遅すぎた為に犠牲者を増やしてしまう。

結局、ヴィクターくんも息子さんも救われない悲しい結末を迎えてしまったのでした。



しかし、そもそもどうしてこんな姿になってしまったのだろう。
それについての推測の材料が本文の以下の文にあります。

その瞬間―そのとんでもない大失敗を目の当たりにした瞬間、こみあげてきた感情をどう言い表したものか……。これまで、文字どおり苦しみもがきながら、苦労に苦労を重ねてきた結果、こうして生まれたこのおぞましい生き物を、どう説明したものか……。わたしとしては、四肢は均整が取れた状態に、容貌も美しく造ってきたつもりです。そう、美しくです!その結果が――なんと、これか?

メアリー・シェリー「フランケンシュタイン」 芹澤恵(訳)、新潮社(2014)、P109~110

「四肢は均整が取れた状態に、容貌も美しく造ってきたつもり」……「つもり」……なんだ……。
もしかして、四肢も均整が取れてない……???

更には、身長を2.5mにした理由はこんなことを言っている。

完成までの時間を短縮するには、各部位の細かさが障害になりそうでした。それで、当初の心積もりに反して、巨大な人間を造ることにしました。身の丈を八フィートとして、それに合わせてほかの部位も大きくするのです。

メアリー・シェリー「フランケンシュタイン」 芹澤恵(訳)、新潮社(2014)、P102

いやー……各部位の細かさが障害になりそう=でかくしよう、ってあまりに安直過ぎでは。
「おっきいほうが作りやすいし、いいよね」
って、小学生男子か。
それに、なんとなく自分の不器用さを理解しているかのような言い方な気もする…。

以上の事から、

ヴィクターくん、本当は造形とか美術とかクソ下手だったんじゃないのか…?(;´・ω・)

…と思うに至ったのでした(`・ω・´)+
もしヴィクターくんが造形が得意で思った通りイケメンな息子さんが誕生していたとしたら、お話は大分違うと思うのです。

ヴィクターくんも逃げ出すことはなかったでしょう。
しかし、ヴィクターくんが卑屈で意気地なしなのは変わらないので、「神の領域を侵してしまった…」とか後から後悔し始めてひと悶着あってハッピーエンドにはならないかもしれません(-ω-;)

狂気の科学者、という感じではないけれど情けない奴なのです。…そこが好きなんだけども。


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